2024/05/01
ほり泌尿器科クリニック 堀 大輔
当筆者は平素より開業とは緻密なマーケット調査が最重要であり、立地こそ勝負のカギを握ると信じて疑いません。内装をどうしようか、導入機器をどうしようか、職員教育・広告戦略をどうしようか…こういったソフト面は簡単にパクることができます。「ソフトはパクれてもハードはパクれない」が当筆者の信念でありますが、しかしながらこの信念は逆に言いますと「優れたソフトはできる限りパクらなければならない」ということに他なりません。
開業のスタイルも「開業医という事業を興して泥水を啜ってでものし上がる」という気概をもった積極的開業と、「大学に残れないから・定年が近いから仕方なく開業でもするか」といった消極的開業に大別されますが、後者のスタイルではこれからのご時世、成り立つことは困難であるということは火を見るより明らかでしょう。
恐ろしいまでに貪欲に理論・実践双方のマーケットの勉強をしパクれるものはパクりつくす…ソフトの情報収集に関して申し上げますと最近は便利になったものでしてwebを用いることも一法でありましょう。
しかし検索だけでは本音の部分でかゆいところに手が届きにくいのも事実であります。開業に際して流行っている先輩開業医に相談・アドバイスを頂戴することは必須といっても過言ではありません。相談は電話やメールだけでは不十分であり実際にナマで見学することをお勧めします。
因みに内装では当院の場合、冷たい色はなるべく使用せず暖色で統一する様にしています。また基本的に保険診療の上で治療を提供するという環境においては、敢えて語弊を恐れず申し上げますと、医者患者関係は友人関係の様な対等ではありません。医者が患者より下位ということもなく、やや医者が上位に立っているハズであります。それを患者に無意識のうちに刷り込ませる仕掛けが当院には複数仕込まれています。(僭越で恐縮ですがこの場では秘密にさせていただきます(笑))
パクるポイントは多岐にわたりますが、その中でも当筆者が特に肝要な点の一つと考えているのが診療に対する姿勢であります。実際の診療を見学し集患のポイントがどこにあるのかを是非勉強していただきたい。周知の事実で改めて申し上げるまでもありませんが、収益=患者数×診療単価であります。診療単価の上昇は日本泌尿器科学会の保険委員会等の仕事でありますが、我々にできることは如何に患者数を上げるかという点に他なりません。ソフトの部分でどこまでupさせることができるのか、内装・導入機器・職員教育・広告戦略…まずはとにかく患者に診療所まで足を運んでもらい、その上でリピーターを増やすことが重要であります。
リピート率を上げる診療のテクニックが必要不可欠であるということに論を俟ちません。リピート率は当然のことながら、患者満足度に比例するためその患者満足度を高める診療のテクニックをパクらなければなりません。そもそも勤務医の先生方に、現在ご勤務されている病院で手術など腕前だけでなく、患者評判の良い医師の診療風景を直に観察したことがあるかと問うてみとうございます。当筆者も勿論でありますが、誇れるほどまでに自分の診療スタイルが完成されているのか、自分の有する知識・スキルだけでなく患者に対する姿勢、限られた診療時間内で満足を与え、さらには自分のファンになってもらい得るだけの診療内容を提供することができているのか、特に開業する上では常に率直に思慮する必要があると考えています。
その点、日本オフィスウロロジー医会にはレジェンド級の開業医が多数在籍しています。そのスペシャリティーも一般診療・日帰りサージカルオフィスウロロジー・女性泌尿器科・在宅診療と多岐にわたり、当筆者などこれらレジェンドの前ではチンピラ同然であります。レジェンドを始めとして、成功している開業医達の通常表に出でくることが殆どない本音の部分と、そのノウハウを是非パクるべきであります。
本気で開業するのであればパクれるものは人脈も含めて何でもパクる、くらいの意気込みが必要です。因みにレジェンド達は「そんなもんパクられても自分は負けないよ」と常々自信満々でいらっしゃいますので、気にする必要はありません(笑)。ご興味のある方は「こんなクリニックの見学をしたいのだが」「○○クリニックの見学をしたいのだが」と事務局にご連絡賜れば幸いです。
写真 右から2人目が筆者
2024/04/29
泌尿器科くろだクリニック 黒田秀也
第111回日本泌尿器科学会総会の最終日である4月27日(土)午後に、オフィスウロロジーのシンポジウムが開催されました。
「「オフィスウロロジー 将来開業するなら何やりますか?」一般診療、日帰りサージカルオフィスウロロジー、在宅診療」というタイトルからもお分かりのように、開業の可能性を持った勤務医の先生方をターゲットにしたシンポジウムです。
このシンポジウムを企画されたのは、学会のオフィスウロロジー部会長である神奈川県の加藤忍先生で、田代ひ尿器科の山内智之先生とともに、座長を勤められました。山内先生は、愛知県豊橋市で20年以上オフィスウロロジストをされており、同県のオフィスウロロジストのリーダー的存在です。
先のセッションが遅れたため私は3分遅れで会場に入ったのですが、その時点ですでに空席は少なく、しばらくすると立ち見の先生方も多数出るほどの盛況になっていました。会場を見回すと若い先生方が多く、熱心に聴いておられました。
1人目の演者は、私と同じ大阪で開業しているほり泌尿器科クリニックの堀大輔先生で、これまた私と同じで口が悪く、それが面白くて会場の大笑いを誘っていました。
開業前の心がけとして「開業場所選びが命運を分ける、ソフトはあとでもパクれる」など、これから開業を目指される先生方には非常に参考になる内容でした。自院のレセプト数の推移も公表されていましたが、毎日120程度診察しているというパワフルぶりです。すでに開業20年のベテランなのに、自分のことをいつも「チンピラ」と言われますが、好物は「キンピラゴボウ」なのだそうです(ウソ)。
2人目の演者は、埼玉県で日帰り手術をされている、かとう泌尿器科クリニックの加藤裕二先生で、BPHの外来手術などを中心に、すでに8,000件も外来手術や生検を行われていることに驚きました。同院は、加藤理事長以外に常勤医師(院長)1名、非常勤医師6名という大所帯ぶりで、看護師・事務職員も多く雇用されています。会場の先生方は、きっと「オフィスウロロジーでここまでできるのか」と思われたに違いありません。
3人目の演者は、岐阜県のいろは在宅ケアクリニックの土屋邦洋先生でした。院長以外は看護師2名、事務職員1名(奥さん)という少人数の在宅クリニックで、何と開業資金は1,000万円でお釣りが来たとか!
心奇形で数日しか生きられないとされ、通常は出生後病院から出られない13トリソミーの新生児を、在宅で6か月間も長生きさせたというエピソードには心底感激しました。
コロナ禍のためwebまたはハイブリッド開催が増えてしまい、会場に集まる先生方も減っていました。そんな中、今回のシンポジウムでは、日本のオフィスウロロジストの3名の典型例を見せて頂きました。
会場から、労務や経理の問題、休日は取れるのかなど、具体的な質問が飛んできましたが、堀先生が「労務が好きな医者などおらん」と笑いを取られ、あとの2人の先生方も見事にフォローされていました。
現在の日本にはこんなに素晴らしいオフィスウロロジストがいるということが、強い印象を持って会場の先生方に伝わったと確信します。
立ち見が出る満員の会場が熱気で包まれるシンポジウムは久しぶりです。堀先生と加藤先生がプレゼンの中で当医会を紹介して下さったおかげで、翌日までに3人の新規入会がありました。
この素晴らしいシンポジウムを企画頂きました加藤忍先生、座長をお勤め頂きました山内智之先生と、3名のぶっ飛んだ演者の先生方、本当にありがとうございました。
写真左から 山内智之先生、加藤忍先生、堀大輔先生、土屋邦洋先生、筆者 (加藤裕二先生どこ行ったの?)
2023/07/31
泌尿器科くろだクリニック 黒田秀也
「開業医ってさあ、人の言うこと聞かないじゃん」というのはカリスマ女医・関口由紀先生の名言である。
勤務医が開業を決意する理由の1つに「病院の管理者・上司の顔色を伺って機嫌を取ることから解放され、自分で何でも決めてやりたい」というのがあると思う。病院管理者や上司がバカだったらなおさらだ。私もそうだった。
だから、開業医には人の言うことを聞かない人が多いのかも知れない。
開業決意時にまず障壁となるのは、「メスを捨てる決意」と「資金をどうするか」である。前者に関しては、サージカル・オフィスウロロジーという選択肢があるが、資金問題ばかりは自分で工面しないとどうしようもない。開業形態にもよるが、5,000万円~1億、もしくはそれ以上必要だろう。
開業後1年半で運転資金2,000万円を溶かしてしまったMBAホルダー・松木孝和先生のような猛者もいるが、こんなぶっ飛んだ先生の真似はやめた方が良い。まあ誰も真似する人はいないと思うが。
自己資金だけで開業できる金持ちならいざ知らず、開業資金は銀行、信用金庫、日本政策金融等から借金するしかない。幸い最近金利は安いが、担保や信用が無ければ低金利で融資を引っ張ることはできない。
逆に資産があるのが銀行にバレると「先生、お金借りて下さい」ともみ手をしながら銀行の担当者がすり寄ってくるらしい。私も早くそんな身分になりたい。
開業に際して最重要なのが場所の決定である。堀大輔先生の名言「ソフトはパクれるが、ハードはパクれない」を頭に刻み込んで欲しい。一旦場所を決定してしまうと、あとで移転するのはハードルが高い。
私も開業後22年になり、それなりに成果を挙げているので、開業志望の後輩が何人も相談に訪問してくれる。正直のところ「なんでこんな所に決めたん?」と思う例も少なくない。中にはコンサルタントの言いなりになったとしか思えない場所で開業した先生もいる。
開業志望の後輩がやって来たら、いつも次のようにアドバイスしている。
・開業場所決定について
オフィスウロロジーの開業至適地を最も知るのはオフィスウロロジスト
コンサルタントに聞くくらいなら流行っている先輩を分析・もしくは直接聞け
家賃の安い裏通りより家賃の高い表通りを選べ
中には悪徳家主もいるので注意(何人もテナントが逃げたビルがある)
・開業コンサルタントを全面的に信用するな
コンサルタントに医療機器・検査会社まで丸投げは危険
家主やリベートの多い業者側に立って、開業場所や医療機器を勧めてくるコンサルタントもいることを忘れるな
・超音波検査機器のコストはケチるな
診断力に直接影響する
・ホームページは必ず自分で更新できる業者にせよ
いちいち業者にメールで更新を依頼するHPにすると非常に不便
業者が分からなければ、このオフィスウロロジー医会のHPの業者アイ・モバイルを選べば間違い無い
開業を目指す先生方、健闘を祈ります。
2021/9/13
鶴泌尿器科クリニック 鶴 信雄
全国の開業泌尿器科医の皆様、日本オフィスウロロジー医会へようこそ。私は静岡県浜松市で日帰りCVP手術を行っている鶴泌尿器科クリニックの鶴 信雄です。今年で開業して5年目になりますが、実は自分が開業医になるとは全く思っていませんでした。
故鈴木和雄先生から腹腔鏡手術の手ほどきを受けて、腹腔鏡下前立腺全摘を300例以上、腎・副腎摘除術を200例以上経験して、大学病院や地域の中核病院でさらなる研鑽を積み重ねる漠然とした将来を考えていましたので、正直に言いますと、開業は行き場を失った後の最終地点でした。今現在、新進気鋭のアカデミックな若手泌尿器科医の先生方が、我々に投げかける視線はつい最近までの自分の視線と重なる気がします。
当然です。現代の泌尿器科学はロボット支援手術では外科の最先端であり、がん治療の化学療法、免疫療法は他の領域を牽引する勢いです。ちんちん科、小便科、性病科の面影は全くありません。30年前に泌尿器科をあえて選択された先生方は、主任教授にとどまらず、各地の病院長、学長に選出されています。昔の暗いイメージは完全に払拭されて、泌尿器科医は若手医師の魅力的な選択肢の一つになっています。
私自身、腹腔鏡手術もがん治療も楽しかったですが、夜何回もトイレに起きて困っている人を助けてあげたい気持ちの方が強かった。「先生、夜起きる回数が減って本当に助かりました、ありがとうございました」。この言葉を聞いて無上の喜びを感じたときに私のライフワークは夜間頻尿だとはっきり自覚できました。手段は問いません。薬物療法、手術療法、民間療法、生活指導、保険適応外の先端医療。このロードワークをこなすには、病院に属していては出来ない、そう考えたときにサージカルオフィスウロロジーが最適解でした。年齢は50歳が迫っていました。準備期間を経て、49歳と361日目に開業初日を迎えてはや4年以上が過ぎました。外来日帰り手術を特色にしていますが、前述したように私にとって、手術は、夜間頻尿改善のための一手段に過ぎません。
一つの理念を持った開業形態が受け入れられるのか、開業医の諸先輩方の意見を拝聴したいと同時に、これから夢を持ってオフィスウロロジーを目指す先生方にも、つたない経験を伝えていければと考えています。
LIVE配信 2021/9/4(土) 1330-1450
座長 岩澤クリニック 岩澤晶彦
シンポジスト
岩佐クリニック 岩佐厚
「躍動する日本のオフィスウロロジーの現状」
増田泌尿器科 増田光伸
「オフィスウロロジーは何が出来るのか?
ー現状・課題・展望ー」
泌尿器科くろだクリニック 黒田秀也
「行列のできる泌尿器科クリニックのひみつ」
座長の言葉
コロナ禍で厳しい状況ですが、自己啓発作家のナポレオン・ヒルは「全ての逆境には、それと同等か、またはそれ以上の恵みの種子が隠されている」と断言しています。さて、この度本邦でオフィスウロロジストとして成功している3人のカリスマドクターに講演をお願いしております。3人は日本泌尿器科学会専門領域オフィスウロロジー部門の歴代の部会長であり、地域医療に貢献されているのみならず、日本泌尿器科学会との連携もあり、グローバルな仕事をされています。オフィスウロロジストにとって大切なのは患者を診る医療のみならず、診療所の経営、職員の教育、業者との打ち合わせ、医師会活動、大学病院や地域との連携など、多数の仕事があります。その中で大切なのはあらゆる面でのネットワークであります。医療に関しては、手術や入院が必要な時の後方支援病院との病診連携、泌尿器科の患者を紹介して頂ける地域の診療所との診診連携が成否になります。オフィスウロロジーの魅力は、ズバリ医師としてのやりがいでしょう。患者から良くなったとの感謝の言葉を頂いたら、成功の第一歩です。大学での辛い医局生活で研修を受け、海外留学で人生経験を踏み、市中病院で臨床を詰んで開業するパターンが多いと思いますが、今は自分が院長であり、オーナーでもあります。最終的には患者、職員等のヒトとの人間関係のコミュニケーションが大切です。現在開業されているオフィスウロロジスト、さらにこれから開業を予定しているウロロジストにとって、3人のカリスマドクターから貴重なお話が必ず聞けますので乞うご期待下さい。
2021/07/20
横浜二俣川うめもと泌尿器科クリニック 梅本 晋
私は前職の神奈川県立がんセンターの最寄り駅である相鉄二俣川駅直結の医療モール内で泌尿器科単科のクリニックを開業しています。いわゆる前職の総合病院の門前クリニックです。地域事情や病院の規模・特性などに合わせて、それぞれの地域で病診連携を模索されていると思いますが、一例として当院の状況をお示しします。
私が市中病院やがんセンターで勤務していた時に感じていたのは、手術や治療が高度化し説明にも長時間要するにも関わらず、軽症、定期follow の外来患者数の増加に伴う負担です。血尿のスクリーニング、がんの術後定期follow 、夜間頻尿などの排尿障害のコントロールなどクリニックでもできることが病院外来で行われていて、病院でしかできない検査や治療が人員的にも時間的にもひっ迫していました。
そこで、当クリニックのコンセプトとしては、クリニックを病院の泌尿器科外来と同等の機能にすることで、病診連携を加速させ、病院勤務医の外来負担を軽減し病棟管理・手術・救急対応に集中できる環境を整えることとしました。そのためには、CT・MRIの画像診断システムの構築が特に重要で、近隣の画像センタークリニック(脳外科)とオンライン連携し、画像が自動的に電子カルテに取り込まれ、緊急時には即日画像確認もできる体制としました。その他、紹介状の簡素化、軟性膀胱鏡の導入や各種膀胱内注入療法実施、ホルモン療法の導入・維持、安定している排尿障害薬などは3ヶ月処方も可にするなど、病院からクリニックへ紹介する際の障壁をできるだけ取り除くようにしました。
一方で地域の内科クリニックとも親睦を深め、血尿やPSA高値のスクリーニング、排尿障害などは内科クリニックからまずはクリニックへ紹介していただき、画像検査も含めてスクリーニングしてから、より高度な検査・治療が必要な場合には病院へ紹介するようにしています。それから病院はどうしても人事異動やシステムの更新が激しいので、週1回の病院での外来勤務や地域連携の会等を通して、常に病院勤務医と顔が見える信頼関係の構築と医学知識のアップデートなどをやるように心がけています。
病院とクリニックは夫婦で、患者さんはその子供のような関係が理想で、お互いが尊重・協力しあうことで、最終的に患者さんの治療満足度の向上を図ることが目標です。これからのクリニックは病院からの紹介患者を受け身的に待つのではなく、周辺病院の開業医に対するニーズを十分にリサーチして、それに対応できるよう院内外の設備を整備した上で、主体的な病診連携システムの構築が重要と考えます。
最後に、当院のスタッフはもちろん、当院と関わるすべての方に敬意と感謝を表すとともに、このオフィスウロロジー医会の益々のご発展をお祈り申し上げます。
2021/06/20
ほり泌尿器科クリニック 堀大輔
私は大阪府内で人口・面積共に第二の都市である堺市の中百舌鳥で2004年4月より泌尿器科単科のクリニックを開業しています。開業は「積極的開業」と「消極的開業」の2つのカテゴリーに分類することができると考えています。消極的開業とは例えば大学に残れない、定年が近い、仕方がないから開業でもするか、等というパターンを指します。この姿勢では行列のできる診療所を作ることはまずもって不可能であります。開業医という一事業を興して泥水を啜ってでものし上がってやる、位の気概が絶対に必要でありそのためには何をするべきなのかを常に考えて行動に移していく…これこそが積極的開業でありこれからの時代は少なくともこのスタイルでないと生き残ることはできません。
開業し経営を軌道に乗せ行列のできるクリニックを作り上げるためには様々な要素・ハードルがありますが、その中でも最も重要なポイントが緻密なマーケット調査そのものであり、立地こそが勝負の鍵を握ると言っても過言ではありません。下品な表現で恐縮ですが、「ソフトはパクれてもハードはパクれない」…これが自明の理であることは論を俟たないかと思います。泌尿器科に限らず診療所のマーケティング戦略を私はこれまで多数目にしてきましたが、脆弱な戦略が大半だという印象が拭えません。開業予定地を中心にした同心円を描いてその内部に属する人口を計算、そこに受療率を掛け算して潜在患者数を割り出す。それを競合医院数で割り算して来院患者数を予測する…世間一般ではこれをマーケット調査と称していますがこの手法は論外であり危険極まりない行為と言わざるを得ません。実際この計算式で予測された患者数ほど蓋を開けてみると患者さんが来院されないという診療所はごまんと存在します。真のマーケティング理論をまずは自分自身で勉強・マスターし、開業予定地の少なくとも周囲5kmは刑事ドラマではないですが現状百回と申しましょうか、何度も何度も足を運んでそこに住む人たちの人流・心理的指向性を厳密に判断することが必須であります。また自分は基本的には蛇蝎の様に嫌われて実力がない、そして地域連携は計画込みにするのではなくあくまでボーナス点と考えるべきであります。その上で競合相手の精査を徹底的に行い身元から評判、得意分野や一日の来院患者数を把握することなしには開業を成功させることはできません。
こういった胸襟を開いた本音の内容の話は意外となされていないもの、しかし今回発足した日本オフィスウロロジー医会を設立された諸先生方はその道のプロが勢揃いしています。是非この機会にお近づきになるチャンスを頂戴し、全ての皆様が行列のできる診療所を作り上げていくことを祈念して止みません。
2021/06/04
泌尿器科くろだクリニック 黒田秀也
クリニックの広報宣伝手段としてホームページ(HP)が主役になっているのは言うまでもありません。主な患者層が80代である高齢者中心の当院ですらそうなのですから、都心で開業されているクリニックこそHPの重要性は大きいはずです。
HPはただの告知板ではなく、クリニックから情報を発信するためのツールです。パソコンからよりスマートフォンから来られる患者さんがほとんどですので、スマホからHPがどう見えるかが大事なのです。この点をぜひ覚えておいて下さい。
今回オフィスウロロジー医会を立ち上げるにあたり、大阪府、兵庫県、京都府のほぼ全ての泌尿器科クリニック、300軒以上のHPをチェックしてみました。驚いたことに、半分以上のクリニックにHPがありません。リンク切れになっていたり、所属医師会にリンクしているだけのものも多数ありました。
HPがあったとしても、作って放置しているだけで、今の時代に合わない貧相なものが多いのにも驚きました。これでは患者さんを集めることはできません。現状に満足していて増患対策に興味が無いのか、はたまたHPの重要性を理解されていないのか、それともHPの作成方法が分からないのか。
一方、開院されて間もない若い先生のクリニックではさすがに元気なHPが多いです。
「え?ホームページに元気なのとそうでないのがあるの?」
はい、その通りです。IT業界は日進月歩で、HPも旬のものからカビの生えたものまで、新旧入り交じっているのです。
この日本オフィスウロロジー医会のHPにお越し頂いた先生方、「ちょっとイカしたホームページだな」と思いましたか?
そう感じて頂けたならとても嬉しいです。このHPの骨格と構成は私が作り、コンテンツの主要部分は増田光伸先生に作成して頂きました。
しかしすでに高齢者になった2人だけでは、お洒落なHPなどとても作れません。若い女性ウェブデザイナーのTさんが、非常に大切な役割を果たして下さいました。このHPには、Tさんの優れた才能とセンスが光っています。
良くできているHPの例として、本会監事の関口由紀先生が経営されている女性クリニックLUNAのHPを挙げておきます。
若い女性を対象にしているクリニックらしくとてもお洒落なHPで、スタッフの写真1枚1枚にもこだわりが感じられます。女性クリニックLUNAにとって、このHPは3社目になるそうで、力の入れようが分かります。
本オフィスウロロジー医会のHPは、ホームページ制作会社「アイ・モバイル株式会社」の最新ソフトを用いて作られています。ウェブデザイナーのTさんに数時間にわたりウェブ会議形式で要望をお伝えし、試行錯誤の上ホームページが完成しました。
ぶっちゃけたお金の話も書いておきましょう。本HPの制作初期費用は約100万円、都度の更新費用不要で維持費は年間20万円程度です(会員管理ページは別途)。これは安いと思います。女性クリニックLUNAのHPの初期費用は、何とこのHPの3倍!だそうです。カリスマ女医はHPに労力と資金投入を惜しまないことがお分かりいただけましたか。
タウンページの広告に年間100万円以上使っていたと前回の記事で書きました。それと比較してHPにかかる費用は決して高くありません。はっきり言ってインフラを盾にしたNTT商法は、時代遅れだと思います。もう固定電話は激減し、時代は変わりました。
ただしHPには寿命があります。約5年ごとに見直して作り直す必要があることも頭に入れておいて下さい。HPはクリニックの広告塔です。ボロ着を纏っていては人は寄って来ません。
もう1つ、このホームページソフトには重要な特長があります。それは自分で編集・更新できるという点です。著作権フリーの画像素材が多く揃っていますし、自分で撮った画像をアップして掲載することも可能です。
私のクリニックのHPも同じくアイ・モバイルの作成で、HP会社は関口先生と同じく15年で3社目です。過去2社のHPソフトは使いにくく、自分で自由に更新ができませんでした。いちいちHP会社にメールで更新依頼をして、数日後にやっと更新されます。間違っていたらまたメールで連絡して数日待ち。これでは臨時休診の掲示なんてできません。5年前にアイ・モバイルに変えてから、格段に便利になりました。
アイ・モバイルには大変お世話になったので、少し同社の宣伝をしておきます。同社はすでに多くのクリニックのホームページを作成しており、各診療科に特化したテンプレートも用意されているそうです。
これから自院のHPを作成したい、新しいHPにリニューアルしたいがどこに頼んで良いか分からない、という先生は多いと思います。そんな先生方は、ぜひ一度アイ・モバイル株式会社に相談してみて下さい。
行列のできるクリニックをつくるために。
https://web.gogo.jp/imobile-jsou/form/smartpage
(本会HPのトップページからもリンクしています)
2021/06/03
泌尿器科くろだクリニック 黒田秀也
2021年6月で開業して丸20年が経ちます。現在でも患者数は減少傾向をみせず、2021年3月にはレセプト枚数が開業以来最高になってしまいました。しかし20年前の開業時には患者数の立ち上がりが悪く、開業半年目で同じ医療ビル内の内科に毎日100人以上、整形外科には250人以上も患者が来るのに、うちは10〜15人程度でした。その状態が2年くらいは続いたと思います。
お向かいの整形外科にはどんどん患者が入っていっていくのに、当院には1時間に2〜3人。そこで増患対策を考えないはずはありません。借金して開業してるので、ふんだんに広告宣伝費が使えるわけもなく、多少知恵を絞りました。今ではあまり役に立たない思い出話になりますが、記録として書いておきます。
・新聞に折り込みチラシ
当時はまだインターネットの黎明期で、新聞が元気だった時代でした。開院時に職員募集を兼ねた新聞折り込みチラシ約5万枚を配りました。印刷代約11万円、折り込み代約12万円で、合計23万円。
これがけっこう効果的で「頻尿・夜間頻尿・前立腺肥大症の相談」と書いたチラシを持った患者さんが半年以上経ってからも来られました。そこで「頻尿・夜間頻尿」で困っている人がやたらに多いと気付いたわけです。
・タウンページ
インターネットと携帯電話の普及により今では絶滅してしまったタウンページですが、当時は効果的な広告媒体であったと思います。当院の宣伝を載せたタウンページが発行されて以降、新患数は急増しました。
しかしタウンページへの広告の掲載料は高かった。NTTはやり方が汚くて、地域を細分化して2冊だったタウンページを薄っぺらな4冊に分けるということをしました。1冊毎に掲載料を請求されるので、最盛期には毎月10万円、年間120万円も支払っていました。高齢者の多い地域なのでやむを得ませんが、これを15年くらい続けていたので相当な出費です。もちろん数年前にバッサリ中止しました。
・電車の駅の看板
うちのクリニックは診療所が12軒(現在は13軒)も入っている駅前の医療ビルにあります。開院当時は駅に医療ビルの大きな広告を出していました。費用は1軒あたり年間12万円×12軒=144万円/年でした。
一旦作って出しておいたら毎年144万円も入るので、広告会社としてはボロい商売だと思います。あちこちの駅には診療所の看板が林立していますが、広告会社の人が居酒屋で「医者はカモや」と言っていたという話を聞いたことがあります。
当医療ビルの広告ですが、認知度が増してきたので10年くらいで廃止にしました。
・バスの掲示広告
うちの医療ビルは阪急電車の終点駅の駅前にあり、阪急バスが毎日約250台ロータリーに入ってきます。運行しているバスの実質台数はせいぜい40台くらいと思われたので、そのうちの10台に窓ガラスの内側に貼る大きなシールの宣伝を載せました。
これが大失敗で、陽が当たって窓にシェードを降ろされると広告が隠れて見えません。1年経つとバスが入れ替わってしまい、駅にやって来るバスで当院の広告が載っている車両がほとんどなくなってしまいました。
広告費は1台当たり月2,000円で、10台で月2万円。1年契約で24万円払いましたが、翌年には即中止しました。半分詐欺みたいな商売で、お金をドブに捨てた気がします。
・バスのアナウンス広告
毎日250回も駅にバスがやって来るので「次は北千里、泌尿器科くろだクリニックには次でお降りが便利です」というアナウンス広告を入れました。近隣には泌尿器科がありませんので、知名度を上げるには効果的と思ったからです。これなら車両が入れ替わっても影響はありません。費用は毎月24,000円、年間30万円ほどですが、費用に見合う効果は十分あると思います。
ところが思わぬ落とし穴がありました。自分でバスに乗っていて気付いたのですが「次は北千里、くろだクリニックには次でお降りが便利です」と言っていて「泌尿器科」が消えているではありませんか!!
これには激怒しました。クリニックなんて近くに一杯あるわけで、泌尿器科であることを広告しないと意味がありません。即座に抗議したところ、録音テープをデジタル化する際の手違いで2ヶ月前から「泌尿器科」が抜けていたとのことでした。その間の費用は返金してもらい一件落着しました。
4年継続して患者数も増えたのでアナウンスを一旦中止しましたが、2年ほどして枠が空いたのでまたお願いしますと言ってきました。今度は月2万円にするというので再開しましたが、広告費に定価はないのだと知りました。
当時私は1時間に1本しかバスが来ないところに住んでいました。ある日停留所でバスを待っていたところ、止まらずに猛スピードで目の前を走り去ってしまいました。これにぶち切れて、アナウンス広告を中止しました。広告会社の責任ではないので半分八つ当たりですが、幸いその後も患者さんは減っていません。
今ではホームページによる広告が主流になっています。ホームページの活用は非常に重要で、次の記事で触れたいと思います。つづく。
2021/04/30
泌尿器科くろだクリニック 黒田秀也
前回の記事で「優秀な職員は宝です」と書きましたが、言うは易しで優秀な職員を確保するのは容易ではありません。増田光伸先生が書かれた職員採用の際のエピソードでは、院長だけで決めるのではなく、一緒に働くことになる職員の意見を聞くことが大切だと書いておられます。
当院でも、欠員が出たときに採用に奔走するのはベテランの看護師さんです。私と相談して応募書類の中から面接する人を選び出して、電話して面接のアポイントを取ってくれて、院長が顔を見る前に面接まで済ませてくれます。私は最後にニコニコして「ご縁があればよろしくお願いします」と言うだけです。この看護師さんの人柄が良くて信用できるので、結果的に良いチームができるのだと思いますが、これも人の縁ですね。
受付事務の職員をパートで雇用するのか、常勤で雇用するのかはクリニックによって対応が異なっていると思います。開業医の受付業務は単なる事務職ではなく、古い患者さんと信頼関係を築いてくれます。パートでも常勤でも、ある程度長く勤務してくれている方が雇用主にとって有り難いです。ただしお局様のような存在になったり、院長のお手つきになったりしたら当然まずいです。これで崩壊した実例も知っていますが大きい声では言えません。
ベテラン開業医はよくご存じと思いますが、高い給料を出せば優秀な職員が集まるわけではありません。お金が目的で働く人は、よそでもっと高い給料を出すところがあればそっちへ行きます。
先日私の地元の市立吹田市民病院の内藤雅文院長(大学の6年後輩)の講演を聴いたとき、面白い話を紹介していましたので、ここに引用します。
「3人の石工・・出典ドラッカーのマネジメント」
何をしているのかと尋ねたとき
【第1の男】これで暮らしを立てているのさ
【第2の男】国中で一番上手な石切の仕事をしているのさ
【第3の男】大寺院を作っているのさ
石工を医師に置き換えたら・・
何をしているのかと尋ねたとき
【第1の医師】これで暮らしを立てているのさ
【第2の医師】一番上手な治療をしているのさ
【第3の医師】すばらしい病院を作っているのさ
医師を看護師・事務職員に置き換えたら・・
もうお分かりのように、一緒にすばらしい病院・クリニックを作るスタッフが揃うことが大切だということですね。
2021/04/30
泌尿器科くろだクリニック 黒田秀也
このたび日本オフィスウロロジー医会を設立致しました。「設立の言葉」にありますように、本会は全国に散らばるオフィスウロロジストを繋ぐための会です。開業医には、勤務医には分からない経営者としての苦労や喜びがあると思います。オフィスウロロジストに寄り添う会として情報交換していきたいと思いますので、先生方のご協力をよろしくお願い致します。
私がオフィスウロロジストになって20年が経とうとしています。大過なく20年を過ごせたことに安堵していますが、開業医にとって最も重要なのは、自分と家族、そして職員の健康です。
「健康」には心の健康も当然含まれます。数年前、仕事はできるが離婚問題を抱えている事務職員が当院で勤務していました。離婚問題が泥沼化して、明るかった彼女から笑顔が消え、職場全体が暗くなってしまいました。クリニックに来られるのは、何らかの疾患、または疾患に対する不安を抱えておられる患者さんですから、明るく迎えることは大事なのだと思いました。
と書いておきながら、私も理解のない患者さんにはよくぶち切れていますので、偉そうなことは言えません。耳が遠い上に認知症がある患者さんが1人で来院されたりすると、大声で怒鳴るように説明することも多いです。こんな場合気を付けないと、待合にいる患者さんから「あの院長は個人情報を大声で漏らしている」と苦情が来ることもありますので要注意です(実際に他院であった話です)。
忙しい診察時間にこんな患者さんが数人固まってやって来られたらたまったものではありません。こんな時、私と違って気が長い看護師さんがサポートしてくれています。
開業医が最も頭を悩ませるのが人の問題と言われていますが、優秀な職員は宝です。診察後の患者さんに対するフォローだけではありません。うちのベテラン看護師さんは、尿を肉眼で見ただけで「先生、これは血尿じゃなくて黄疸だから肝臓の超音波検査がいると思います」とか「この肉眼的血尿は普通じゃない。ただの膀胱炎じゃないと思います」など、患者さんを見る前に尿だけを見て情報をくれます。上記の2症例は、胆管癌と変性を伴う表在性の膀胱癌でした。
20年も経つと、最初は泌尿器科とは何の馴染みもなかったスタッフも、院長とともに育ってくる。「行列のできるクリニックには良いチームがある」というのが最近ようやく分かってきました。